夢梟庵日乗

岩田凰瑚(いわたおうご)の写真/日記。文学その他も含めた日々の記録。

映画「BABEL」

川べりの情景
川原の情景 - 水曜日


    
     Sep. 5, 2008 (Fri) 曇り




     涼しい朝。 晴れて日中は暑くなるだろう。それでも、秋の気配がしてきた。北海道の情報によると、紅葉が今年は早いらしい。関東も同様になるだろう。場所によっては、三週間ほど平年より早いかもしれない。
     
     昨日、ケニアで雹が降った。

     遥か彼方の、キリマンジャロの頂にしか雪を見たことがない人々が、目を丸くした様子がニュースで報じられた。無邪気に、頭に雹の塊りを乗せる大人たちが、ほほえましかった。いい映像だな、と思った。
         
珍しいことを人がすると、夏でも、雪がふるんじゃない?とか、雹がふるんじゃない?とよく言う。ケニアでの現象は、まんざら地球の裏の話ではなく、我々に繋がっているのかもしれないのだ。
     


     映画「BABEL」を観た。


     役者に、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、役所広司、菊池凛子、ガエル・ガルシアといった面々が出演していることでも話題になった映画だ。映画館に観に行くつもりだったが、なんとなく行きそびれ、そのうちにDVDでみようと思っていた。すでに見た知人の評価が、あまりいいものではなかったことも、ここまで延びた理由の一つでもある。

     バベルとはもちろんバベルの塔である。古代バビロニアの都市バビロンで、人々が力をあわせて天にとどくばかりの塔をこしらえようとして、神の逆鱗に触れて破壊され、人々は二度と一致協力できぬよう言語をばらばらにされたという伝説の、あの塔である。
     
     映画は、一丁の猟銃がモロッコの荒野の羊飼いの一家にやってくるところから始まる。まだ子供の弟は、姉の着替えを壁の隙間から覗き、自慰もし、覗かれる姉もそれを承知で裸になる。大自然の荒野にある孤絶する家にも、猥雑な空気がすでに存在する。そこにやってきた猟銃は、羊を狙うジャッカルを退治するために、父親が知人から購入したもの。留守の間にそれでジャッカルを殺すよう兄弟に託す。
     真面目で責任感のある長男に対し、こまっしゃくれた次男は要領がよく口が立つ。射撃の腕も何故かまだ小さな弟の方が上だった。遊び半分で山の上から狙った、遥か遠くの点のようなバス。弟の一撃は、突然バスの窓ガラスをピシッと割り窓にもたれて眠っていたアメリカ人の妻にあたる。それがケイト・ブランシェットである。最も美しい白人女性の一人だろう。
     彼女もまた問題を抱えていた。夫のブラッド・ピットとの間はよくなかった。そのきっかけは、三番目の子供を寝ている間に急死させてしまったことにあって、夫婦間でそのことの心の整理がついていなかった。会話もなく、妻はなんでこんなところ(モロッコ)に連れて来るのよ、こんなことをしてても失われたものを取り戻すことはできないと夫にいう。そのいやいや旅行の徒路、バスの移動中の出来事だった。何も無い荒野の一本道で、突然妻は狙撃された。
     
     こうやって、物語は始まっていく。モロッコ、アメリカ、メキシコ、東京。地球上のそれぞれ離れた四点が、それぞれ繋がってくる。昔では考えられないが、政治や経済を通してこれだけ地球が小さくなると、こういったこともまんざら映画の中だけの話ではない。風が吹けば桶屋が儲かる・・・とか、同様のことわざが日本にもいろいろあるが、一丁の銃がきっかけとなって、大自然の中の兄弟に、旧約聖書の中の話をつぎつぎと連想させる。ひとつは、近親相姦の萌芽から、神の罰により滅ぼされた罪業の都市ソドムとゴモラがあるだろうし、事件後、兄にも責任を押し付けようとする弟の行為と、その結果地元の警察に射殺されることになる兄は、カインとアベルを象徴しているだろう。
     
     銃さえこの家にこなければ、悲劇は起こらなかったのかもしれない。その悔しさは、銃を叩きつけて壊した弟の姿に現れている。
     そしてその銃は、東京の狩猟が趣味の役所がモロッコの世話になった親しいガイドに贈ったものだった。役所自身、妻は数年前に自殺。一人娘だけが残る。娘は聾唖者である。心に問題を抱えているのだ。

     バベルの塔が、塔の周囲を地上から上へと廻る回廊でできているとすると、モロッコ、アメリカ、メキシコと話が移動しながら徐々に上に上っていくようだ。そしてそれは銃の出自が東京ということで、上階なのか、それともメビウスの輪のように地階につながってまた元に戻ったのかはわからぬが、螺旋を描いていることは確かなようだ。
     聾唖の娘ということでわかるように、言語を神によってばらばらにされたという神話を、言語を聞くことも話すこともできぬ女性を登場させることで、何かを暗示しているようだ。ラストシーンは彼女と、その父親でおわるのだから・・・。

     この映画で、救いは、ごくごくわずかだ。美しい映像だが、現実が冷徹に表現されている。
     誰が、一番利を得ているか?
     
     それは、アメリカという「国家」なのかもしれない。アメリカ人自身ですら、国家のために、多かれ少なかれ損なわれている・・・ような気がしたのである。
     
     観おわったあと、フィクションとしての映画を観たのか、ルポルタージュを見たのかと、錯覚してしまうくらい現実そのものだ・・・という印象を抱いたのである。きわめて真面目な作品である。
               





  1. 2008/09/05(金) 10:19:54|
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いわたおうご

Author:いわたおうご
スペイン/パンプローナのアパートの裏庭で鳴いていた梟。
生まれて初めて耳にした梟の乾いた哀切なる鳴き声・・・。
それにちなんで名づけた夢梟庵。

フォトグラファーとして、一人の人間として、魂をさらけ出して記録しよう・・・。

このブログでは日々の日記がわりにデジカメによるカラー写真を、
そして時には自分の作品である白黒のものも随時ご紹介したいと
思っています。写真は全て、無断転載を禁じます。

<経歴> 
    
    東京生まれ。
    大学卒業後商社に勤務、
    そのうち3年の米国駐在を経て、
    世界の美しさに目が覚め退社、
    フリーのフォトグラファーに。
    APA展入選 2回
     (  04' 第32回 /
      07’ 第35回 )

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